2015.09.06

確かに目の前にあるもの〜神奈川大学男子バスケットボール部〜

関東大学バスケットボール2部リーグは戦国時代が続いていると言っていい。

所属する10チーム全てに勝利の可能性がある。つまりは、1戦たりとも安心な試合はないということだ。

 

だからこそ、1勝の重みが違う。

たった一試合に競り負けることで、2ヶ月に及ぶ登頂への道中を転がり落ちてしまうことも少なくない。

 

2014年度リーグ戦。神奈川大学の道程もまた、険しいものとなった。

4勝14敗の10位。

入れ替え戦には危なげなく勝利したものの、2部リーグで上位に進出する厳しさを改めて実感したシーズンだった。

 

「去年のメンバーは誰もいない。完全にゼロからの出発です」

 幸嶋監督は練習後の選手の様子をみながら、ゆっくりと口にする。

 

 

事実、試合に出ているメンバーは、去年プレイタイムがない選手ばかりだ。

春のトーナメント、新人戦共に善戦したものの、経験のなさが露呈し、初戦敗退となった。

 

それでも、神大は日に日に自信を増している。

”ないものねだり”をしても仕方がない。

目の前にあるものを見つめ、練習に励む。

 

 

①実直

「今年の特徴は選手全員が真面目ということ。それはバスケットボールに対してもそうですし、私生活においてもです。」(幸嶋監督)

「去年と違って今年は個々の能力が高いわけではないですが、みんな素直に練習しているので、結束力は高いと思います。」(#74/佐藤晃弘/4年/CF/190㎝/葵高校/CAP)

 

神大の練習は極めて真面目だ。

全員が高い集中力で練習に取り組むからこそ、悔しがって眉を顰める選手もいれば、大きなガッツポーズを見せる選手もいる。

少しもダレることなく、質の高い練習が続いていく。

 

実は、能力の高い選手が多かった去年はチームの雰囲気作りで苦労した面も多かったと監督は話す。

今年は怒ることが少なくなった分、コーチングに専念できており、理想のチーム作りに近づいているそうだ。

 

今の4年生のみならず、チーム全体として十分なキャリアがあるとは言い難い神奈川大学。

試合に出ているメンバーも、入学時から積み上げてきた練習の成果で、やっと土から芽が出たところである。

決して諦めずに這い上がろうとする、その実直さが、今年の神奈川大学にある大きな武器の一つということになる。

 

監督とキャプテンがその典型選手としてあげたのが、金丸智生だ(#81/3年/PG/163㎝/日川高校)。

今年の春から頭角を現し始め、今や神大ガード陣の顔といっても過言ではない彼も、去年まではプレイタイムが殆どなかった。

どんなに試合にでれない時期でも、決して心を折ることなく、諦めずに練習を続けた。

 

 

 真摯にバスケットボールと向き合う選手に周りも触発されていく。

そうして、良いサイクルが出来上がっているのだろう。

 

 

②結束力

「今年は、誰にでも応援されるチームになるというのが目標の一つです」(佐藤)

 

新チームに移行後、どのようなチームにしたいのか、ミーティングで話し合った。

悔しいシーズンはもうこれまでにしたい。

チームとして戦うこと、そして全員に応援されるチームになること。

この二つを軸に、今シーズンは戦ってきた。

 

選手に負けずとも劣らない熱意を持ったスタッフの影響力も大きい。

監督も「廣瀬や平野の存在も、あいつらにとっては大きいしょう」と認める通り、練習中に気づいたことを選手に伝える姿勢が目立った。

良いプレイには誰よりも大きな声で賞賛を送り、上級生への叱咤激励も厭わない。

ある意味一番のチームにおけるムードメーカーだ。

 

チーム全員の力を合わせて、今年こそは2部リーグ優勝とインカレベスト8を目指す。

全員がチームのことを考えるからこそ、個々の伸ばすべき欠点も浮き彫りになる。

そうしてまた、チーム力の底上げがなされていく。

 

昨年インカレベスト4の大東文化大学を始めとして、あと一歩のところで1部昇格を逃した日本体育大学、新人戦準優勝の早稲田大学など、強豪犇めく2部リーグ。

一試合として気の抜ける戦いはないが、それでも神大は2部の「台風の目」になることができると、順調に仕上げてきている。

 

この夏の厳しい練習で、チームとしてどのように進化したのかも、注目したいところだ。

 

 

③”ロボ”という存在

チームの誰もが慕っている。

そんなキャプテンらしいキャプテンが、ロボこと佐藤晃弘だ。

 

 

 

「高校の先生に『お前は動きが硬い。ロボットみたいじゃないか。』と言われたのがきっかけで、ロボと呼ばれるようになって。高校ではそんなにだったんですけど、大学に入ってから自分からロボと呼んでくださいと言いました。そっちの方が親しみを持ってもらえるかなと思って。…俺の下の名前分からない奴、結構いると思いますよ(笑)」

 

終始笑顔で答えてくれたキャプテンは、誰よりもハッスルしてチームを引張っていく。

自分の技術は大したことがない、だからこそ気持ちの面では誰にも負けないようにする。

「こんな自分に着いてきてくれて、本当にありがたいですね」

この人柄こそが、ロボという人物そのものだ。

 

「下級生にも可能性がある奴が多い。でも…自分が言うのもなんなのですが、まだ若いというか幼いところがあるんですよね。自分がいる間に、来年も十分戦えるチームになるように伝えていきたいと思っています。」

 

まさにチームの核であり、支柱であるロボに、大学バスケで一番大変だったことを聞いた。

少し困ったように笑う彼が、大変印象的だった。

 

「そうですね…下級生としても、上級生としても大変なことはたくさんありました。けれど、やっぱり一番はキャプテンになってからですかね。こんな大きなチームでキャプテンをするのは初めてだったので、最初はどうすれば良いか分からなかったし、それで悩んだこともありました。けれど、自分は自分らしく、自分にしか出来ないことをやるしかないので。学生バスケはまだもう少しあるので、少しでも良いチームにしていきたいです。」

 

いよいよ、どのチームよりも努力してきたチームの、挑戦が始まる。

 

ーーーーーー

 結束力と、正しいプレイ。

そして、ファミリーのようなチーム。

まだまだ発展途上の神大は、今シーズンが終わった時、どんな姿に変身を遂げているのだろうか。

 

「間違いなく、最後の1日まで神大は成長していくとおもいます。最後の日の神大が、一番強い神大になっています。それは、結果がどうであれ、です。そう、信じています」(幸嶋)

 

9月5日から、神大の長い旅もまた、始まる。

順風満帆とも限らない。

2部リーグの厳しさを考えれば、必ずしも努力が結果という形で結びつくとも限らない。

それでも、神大は日に日に、一歩一歩、着実に成長を遂げていく。

 

 

派手なプレイでも、高いスキルでもない。

『確かに目の前にあるもの』

それこそが、今年の神大の、十分すぎるほどの武器である。

Writer
黒田 杏子(クロダ キョウコ)
大学3年生。国内外を問わずバスケを観るのが大好き。高校生の時にCSParkを知り、大学2年の春からジョイン。同じ大学生としての視点を大切にして、選手の様々な素顔を伝えていく。

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